(2024年 加筆改定)
2017年ごろに粗造・乾燥肌が共通項であることが確立しました。アレルギーは付随する可能性がある存在で、遺伝性の可能性が高いです。(ただし,過敏アレルギーは現代日本社会の生活環境において過敏であるということで,本質的には,必ずしも悪い体質ではありません.)よって,アレルギーさえ抑えればよいという疾患ではありません。
アレルギーは一般的に4型に分けられますが、アトピー性皮膚炎に関係するのはこのうち1型と4型です。とりあえずかゆくなる反応は1型に基づくものであり、よって特に1型についての研究が進められています。その結果、1型の中に即時反応以外に遅発相が存在することが解明され、この相が典型的な細胞免疫相である4型への橋渡しをするのではないかと推測されています。またCD4陽性リンパ球には、Th1型およびTh2型があり、アトピー性皮膚炎はTh2型優位のパターンをとる疾患であると目されています。同時に、これらの反応系に関係するリンパ球産生物質も続々と発見され、IL4産生抑制剤については臨床応用されています。また、今後これら反応系に関係する細胞や物質を個別に抑制する薬剤の開発が企図されており、これらの薬剤が市場に出るようになれば、全般的免疫抑制作用を併せ持つ、ステロイド剤を多用することなく加療できる日がやってまいります。
その後これらの薬剤が上梓されました。性質は単純ではなく複合的です。つまりアレルギー系炎症に対する要素と角層の天然保湿成分を増加させる要素の組み合わせです。単純には細胞内まで影響する薬剤の方が強力ですが、免疫抑制が強い可能性が言われています。またこれらの薬剤は投与を開始する医療機関が限定されています。また高価な薬剤なので、投薬を開始するに当たって制限があります。ということで、個人的にはわたしでも開始可能で、事実上副作用がないタイプがよいと考えています。
アトピー性皮膚炎はアレルギーの側面で語られることが多かったのですが,ここに来て乾燥肌の成因として,先天的に酵素の異常がある為に,セラミドという角質細胞間脂質が減少してしまっている患者さんが多く認められることがわかってきました。
その後、重複しますが、角層細胞内の保湿成分の不足がアトピー性皮膚炎の本態であることが明らかになりました。つまりIL13が多い性質(たぶん遺伝性)が以降のJAKの流れで、天然保湿成分の生成を阻害しているという物です。
(上記を前提として) 水道源水の汚染とこれを消毒するための消毒薬の増量や、食品中の化学薬品の増加等に増悪因子を求める方もいらっしゃいますが、多くの患者さんは、生活環境中の微細ダニに対するアレルギーが主体であり、わたくしは、高温多湿型の気候を持つ日本で、鉄骨およびコンクリートを中心とした建造物を建て、密閉度の高いアルミサッシを閉め切りにした状態で冷暖房を行い、ダニにとって最も生育しやすい環境を提供してしまっていることが最大の因子だと考えています。食事アレルゲンについては、食生活の西欧化が災いしているものと考えます。スキンコンディションの面では、入浴時に用いる垢擦りやボディブラシの流行や固形石鹸からボディシャンプーへのメーカーサイドの販売戦略の移行が災いしているものと考えます。
詳細は(アトピー性皮膚炎の患者さんへ・・順天堂外来篇および私見篇)を参照して頂きますが、大まかに言うならば、スキンケアーおよびアレルゲンの除去にあります。
外用で使用する場合と内用で使用する場合では意味合いが異なってくるものと考えます。ステロイドに否定的な立場をとられる方の多くは、「ステロイドの使用により患者さん自身が産生する天然ステロイドが減少し、そのため産生器官である副腎皮質が萎縮し、その結果、ステロイドをoffとした時の抵抗力が低下し、最終的には余計に悪くなってしまう。結局一時しのぎに過ぎないのなら、元々ステロイドは使用しない方が良い。」という主張をなさっています。また、現在これらの意見を主張なさる年齢に達していらっしゃる患者さんは、歴史的にみて旧世代のステロイド外用剤を用いられてきており、そのために副作用が強く出現なさっているという背景もあります。よって、この世代の患者さんが上記の機序を危惧なさることや、歴史的にステロイド外用剤が乱用された感のある時代が存在したことは事実であり、彼らの意見には一面合理性があるのは確かです。しかし、現状においては作用と副作用が乖離した、つまり効果が高い割には副作用が少ない薬剤に移行してきている。また使用するステロイドの強さを以前に比較してより弱いものを選択する傾向になってきているという理由において、よほど広範囲に長期間用いない限りにおいては、上記のようなシナリオは成立しないものと考えます。加えてステロイドはアレルゲンへの反応性を低下させる作用があり、上手に使用すれば理論的にもたいへん有効な薬剤なのです。
ここまでに述べてきたように、アトピー性皮膚炎を根治させることは実に困難であります。時間とお金が無尽蔵にあるならば、ステロイドを全く用いることなく、良好な状態に保つことは可能です。しかし社会人として学生として生活してゆくには支障を伴います。加えてご家族の負担も大きなものになります。よってわたくしは、節度ある使用に関しては致し方ないものと考えます。
アトピー性皮膚炎は症状に波があり、季節によっても影響されることが多いです。ですから増悪時にただただ堪え忍ぶのではなく、一時的にステロイドを使用することも合理性があるように考えます。
内用によるステロイドの使用は、原則として行われなくなってきています。こちらは外用よりもリバウンドが著明に出現するからです。ただし顔面皮疹の増悪時には、外用を強いランクへ移行させるよりも有利であると考えます。
皮膚局所の副作用については、元々、皮膚の薄い顔においては出現し易いです。よって顔への使用に関しては医師と良く話し合って、必要最小限の使用に止める必要があります。例えば網膜剥離を合併しそうな患者さんには是非とも必要になりますが、弱い紅斑のみであまり痒みを伴わない症例では必須ではありません。
以上慢性疾患としてのアトピー性皮膚炎はやっかいな存在ではありますが、これへの治療行為はかなり多数あり、これらを全て試みられた患者さんは少ないのではないかと存じます。よってあきらめる前に(もちろんあきらめるという選択も患者さんの正当な裁量権であるが)これらの治療を受けてみられてください。
(2024年 改訂)
アトピー性皮膚炎とは、もって生まれた過敏な体質と弱い皮膚のために生じる、とてもかゆい慢性の皮膚の炎症ですが、慢性であるために、日常生活上多くのことに注意し、薬の副作用を防ぐ意味からも専門医の定期的診察を受けることをお勧めします。
(2024年 加筆改定)
以上生活上の注意についてまとめてみました。ここに挙げた方法にはもちろん異論があります。従ってこの内容は現時点での私見としてご理解いただきたく存じます。ここに述べた内容だけでも、完全に実行することはたいへんな努力を要します。また新築マンションのように自ずと高温多湿になってしまう環境では努力が思うように報われないかもしれません。アレルギ-の程度も個人差が大きく、効果もこれに相関することになると思います。しかし、これらを実行すれば1ランク弱い外用剤が使用できるようになるかもしれません。このことは長い経過をとることが多いアトピ-性皮膚炎において、副作用の回避という点で大きな意味を持つことを保証致します。患者さんおよびご家族のみなさんのご健闘を祈ります。
問診、視診による症状把握。
病態について説明。
アレルギータイプかどうか、またアレルギー源の特定のための検査施行。
基本的な治療に着手。
検査結果の説明。
生活指導。
病態に合わせた各種治療方法の説明。
症状の変化に対応した治療の進行。
ポイントはアレルギー優位か乾燥皮膚優位かの見極め、増悪因子の特定、外用剤の使い分けにあります。