2014/02/17渥美清さんと普通の人々 その弐

日曜日朝から月曜日朝に掛けての当直勤務に当たっていた私の当直用ポケットベルが鳴ったのは午後8時頃であったと記憶します。「はい連合当直です。」(皮膚科は形成外科と協力して当直を立てていたので、連合当直と名乗った。)「本館○○階ですが、本日の当直は皮膚科の先生ですよね?」「はいそうです。」「それでは診て頂きたい患者さんが一名いらっしゃいますのでお願いします。」「はい解りました。」本館○○階は前号でお話ししたVIPの中でも、特にその度合いが高い患者さんのみが入院している病棟です。しばらくして病棟へ到着。担当の看護婦さんが状況を説明してくれました。カルテに一通り目を通した後、病室に向かいました。その途中で看護婦さんが、「患者さんは俳優の渥美清さんです。」と私に耳打ちしました。病室へ入ると、そこにはにっこりと笑顔を見せるあの方がベッドに横たわっていました。その顔に寅さんの鰓の張った頑固そうな面影はなく、どちらかというと小顔で、色白のきれいな肌をした姿がありました。皮膚症状は顔の毛嚢周囲炎で、針で刺して排膿することにしました。その間渥美さんは一言も発せず、ただ微笑むばかりです。ベッドサイドには地味な服装をした清潔そうな奥様が控えて居られて、そのことからも渥美さんの人柄が窺われました。病室を後にして、渥美さんが映画スターであるとの思いが実感されました。渥美さんの最期がどうであったか、私は知る由もありませんが、おそらくスタートして安らかに逝かれた様に思えてなりません。ほんの数分の回合ではありましたが、プロ根性に触れた、印象深いできごとでした。

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